「ネッティング」とは企業間で互いに保有する債権と債務を相殺させて生じた差額を決済し、それら取引を完結させることを意味します。一般的にはあまり聞きなれないワードではありますが、海外に子会社やグループ企業を保有する大企業も行う、売買取引や貿易決済で活用されている決済方法です。
例えばA社がB社に100万円の売掛金があり、更にB社がA社に80万円の売掛金がある場合、それらを相殺した額である20万円をB社からA社へ支払うことで、ネッティングが成立します。このような場合、通常通りに決済を行うとA社がB社に80万円を、B社がA社に100万円を互いに支払わなければなりません。しかしネッティングを行うことで、通常ならば必要となる送金手数料や外国為替手数料、事務コスト、決算資金などの経費を削減することが可能となります。
また、ネッティングを英語で表記すると「netting」となり、「差額決済」とも呼ばれています。ネッティングは2者間で行う「バイラテラル・ネッティング」と3者間以上で行う「マルチラテラル・ネッティング」に分類され、それぞれその仕組みも少しずつ異なるのです。
2者間で行われるネッティングは「バイラテラル・ネッティング」(bilateral netting)と呼ばれ、A社からB社への売掛金合計金額とB社からA社への掛金合計金額の差額を算出し、差額が生じた側が売掛金の支払いを行います。
バイラテラル・ネッティング | |||
---|---|---|---|
A社 売掛金 | B社 売掛金 | ||
500万 | → | ||
← | 200万 | ||
300万 | → | ||
← | 100万 | ||
売掛金合計 | |||
800万 | - | 300万 | |
相殺計算式 | |||
500万+300万-200万-100万=500万円 | |||
ネッティング額 | |||
500万 |
上記はバイラテラル・ネッティングを表したものです。売掛金を相殺して生じる差額である500万円をB社がA社へ支払うことで、ネッティングが成立します。
3者間以上で行われるネッティングを「マルチラテラル・ネッティング」(multilateral netting)や「多角的ネッティングネッティング」と呼び、主に複数の海外支店や現地法人を所有するグループ間での決済時に活用されるものです。ネッティング業務を総括するネッティング・センターを設け、グループ企業や支店間でのネッティング決済を行います。また、ネッティング・センターを設けずに数か所の拠点を設け行うケースもあり、状況に応じて選択することが可能です。
マルチラテラル・ネッティングを利用しない場合には、一般的に行われる取引毎の決済となります。しかしマルチラテラル・ネッティングを利用することで、バイラテラル・ネッティング同様に送金手数料や外国為替手数料、事務コスト、決算資金などの経費を削減することが可能です。
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ネッティングは更に以下の通り3種類に分類されます。
種類 | 活用時 | ネッティング前の債権と債務 | ネッティング後の状態 |
ペイメント・ネッティング | キャッシュフローの額を抑えたい時に活用 | 維持される | 決済金額の縮小 |
オブリゲーション・ネッティング | 一般的に活用 | 解消する | 新たに総括した債権と債務 |
クローズアウト・ネッティング | 倒産時に活用 | 解消する | 新たに総括した債権と債務 |
2019年10月1日~ | 標準税率 7.8% 軽減税率 6.24% |
標準税率 2.2% 軽減税率 1.76% |
標準税率 10% 軽減税率 8% |
ペイメント・ネッティング(payment netting)は同日に決済する複数の取引の債権と債務を差し引きし、その差額のみを決済する方法です。単純に金銭の流れを短縮化するために債権と債務に変動はなく、実際に動く金銭の流れを最小限に抑えることが可能となります。
オブリゲーション・ネッティング(obligation netting)は同日の決済日、尚且つ同じ通貨で行う複数の取引の債権と債務を差し引き、新たに1つの債権と債務を作り上げる決済方法です。また、ノベーション・ネッティングと呼ばれ、実際に動く金銭の流れの大きさを抑えることが可能となります。
クローズアウト・ネッティング(close-out netting)は倒産時に活用する決済方法として知られ、決済不能な状況となった場合に売掛金を一括清算するネッティングです。上記でご紹介したネッティングとは異なり、決済日や通貨の種類は問わず全ての取引を相殺し、新たな債権と債務を作り上げます。
ネッティングは下記のような理由から、活用が求められています。
取引毎の単発決済ではなくネッティングを有効活用して、グループ会社間の債権と債務の照合を行います。ネッティングを活用することで、グループ全体の債権・財務を把握することが可能です。
ネッティングが活用されない場合には、グループ内の小さな子会社の動向や意見などは見落とされがちかもしれません。しかし効果的にネッティングを活用することで、上層部だけではなく子会社を含むグループ全体の動向や意見が反映されやすい環境下となります。
子会社間で売掛金を多く抱えている場合、外部企業への支払いとは異なります。そのため、本社財務部がそれらのキャッシュフローを把握することは事実上困難であり、外部からの借入などが必要となるケースも少なくありません。資金調達コストや利子発生を防ぐためにも、ネッティングを活用してグループ間での取引を明確にすることが有効です。また、ネッティングを活用することでグループ企業間の支払いの遅延を防ぎ、遅延に対応する手間も削減できます。
外貨取引を行うためには、十分な知識とスキルを持った人材の確保が必要です。しかしネッティング業務を総括するネッティング・センターを設けることで、外貨取引に優れた人材を集中的に確保することができ、人材コストも削減することが可能となります。
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海外に支店や子会社を持つ企業で主に活用されるネッティングは、国によってはネッティングが禁止されているケースや制約がある場合もあります。そのため、ネッティングを導入する際には参加予定である国の法律に沿って、慎重に準備や対応をする必要があることに注意しましょう。
日本では1998年4月より「外国為替及び外国貿易法」が法律で認められ、以前では許可制度であったネッティング取引が、自由に執り行えるようになりました。法の改正により、海外に支店や子会社、グループ企業を保有する企業間における決済をスムーズ且つ有効的に行うことが可能となっています。日本をはじめとするアジアや米州、欧州などの諸外国では、外国為替の自由化と共にネッティング取引は普及されていきました。
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今回は、ネッティングについてご紹介しました。ネッティングは企業間で複雑化した決済を一括して互いの債権と債務を相殺し、その差額を支払って債権と債務を解消させる決済方法です。また、ネッティングによって債権と債務を相殺させるだけではなく、通常決済で生じていた送金手数料、外国為替手数料、事務コスト、決算資金などの費用を削減させるメリットがあります。そのため、海外に子会社や支店を保有する大手企業では、広く活用されている決済方法です。
しかし、国によっては禁止や制約が設けられている場合もあります。ネッティング導入を検討されている場合には、くれぐれも注意しましょう。
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